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柿農家に生まれた阿部兄弟は、当たり前のように果樹の間で遊び転げ、すくすくと育った。微力ながら収穫期にはお手伝い。先代とともに作業する父・亨は、この上ない幸せな光景として見守っていた。
しかし、そんな遊びを通して郁に育まれていたのは、後継者としての自覚、長男としての覚悟。郁は自ら農業高校を選び、福島県の農業総合センター農業短期大学校へと進む。その卒業後、後を継ぐ覚悟を父に告げるや、観光農園で修業してくると飛び出した。
「短大で学術的な知識が身につきましたし、視野も広がりましたが、家業に入る前に、どうしても話術を身につけたかったんです」と郁。父・亨や祖父・晃がつくる柿や桃には絶対の自信がある。だからこそ、自分で育てたフルーツのおいしさは、自分の言葉で届けたい。短大卒業を前に、郁はすでに将来絵図を描いていたのである。
1年後、約束どおり就農。郁は今、父について果樹栽培の実践を学んでいる。「5年経ちました。でも、すべての作業が1年に1回のことなので、まだまだです」と郁。仕事は見て覚えろ、という職人気質な祖父の下、父は苦労した。「だから、俺は知っていることはすべて言葉で伝える。その理由もちゃんと教える。道理がわかれば、技術の習得も早い。きっとすぐに俺を超えてってくれるでしょ」と父は笑う。
郁が三代目として守り続けているのは「自然のまま」だ。「より高品質なフルーツを目指しています。それには樹のままにさせてやるのが一番。強制的に剪定すると樹が弱まります。また、樹は根から養分を吸い上げるので、有機肥料をたっぷり入れて、ふかふかな土づくりをしています」。郁の柿畑には下草がびっしり生える。微生物が活発に活動している証で、土が元気なことがわかる。
「蜂屋柿と平核無柿をあんぽ柿にします。うちのあんぽ柿がおいしい秘密は乾燥です」と郁。あんぽ柿は、柿干し場で乾燥させるが、阿部家にあるのは吹きっさらしの干し場だけ。そこに半田山からの半田おろしがぴゅーっと吹き下ろす。あんぽ柿にとって、これ以上ない最高の環境だ。
11月中旬~収穫した蜂屋柿は皮をむき、吊るす。この光景は県北エリアの風物詩でもある。
「あんぽ柿づくりの工程を見学にきてくださることがあるのですが、モチベーションが上がります。お客さまの笑顔っていいですね。これからの農業は作り手と食べ手のコミュニケーションも大事だと思っています」と郁は楽しそうだ。農業を超えた伝統産業でもあるあんぽ柿づくり。その職人技も伝承しつつ、新しい農業のスタイルを模索する郁の挑戦は、始まったばかりである。
福島が発祥のあんぽ柿。渋柿を硫黄で燻蒸してから乾燥させるため、色が美しいオレンジ色で、半生のジューシーな味わいが特長。粒が大きい蜂屋柿のあんぽ柿はしっかり乾燥した表皮ととろっとした果肉の食感をより楽しめる。平核無柿のあんぽ柿はより甘味が強い。
アルミホイルで包んで冷蔵庫に入れておくと日持ちする。呼吸ができることが大事。ビニール袋は絶対にNG。ただし、長期保存すると水分が抜け、果肉が硬くなってしまうのでお早めに。また、平核無柿のあんぽ柿は甘味が強いので、カビが生えやすい。
渋柿を干してつくるあんぽ柿。柿は収穫してから5~7日ほど追熟させて、程よい弾力が出てきたら皮をむく。この見極めは指先で感じ取る。追熟が不十分だときれいに皮がむけない。また、渋抜きを必要としない甘柿は、青みが3割ほど残っているうちに収穫。追熟で赤くする。収穫後の追熟の技があんぽ柿の良否を決める。