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ピアノ検討委員会の直後、ベーゼンドルファーの購入を決めた冨永町長。その後も気になる様子。日本総代理店の取締役との価格交渉が大詰めのとき、突然やってきて「一番格上のピアノを1200万円に。中古ピアノも1台付けろ」と。慌てた。引地たちが考えていたのはインペリアルじゃない。取締役も驚いて社長へ電話。と、社長も社長だ。「国見を獲れ。損得じゃない。他のメーカーに譲るな」と。笑った。結局、町長と社長にやられた。
平成6年3月。選考試弾。磐田市の本店で板垣先生と3台のインペリアルを弾く、聞く。1台が候補から外れる。残り2台。意見が分かれる。引地が推す1台は女の子。音が若くてお転婆だった。でも、観月台と一緒に時を重ね、少女から大人の女性に変わる様子を見たいと思わせる、そんな音色だった。そう話すと「未来ある人が選んだピアノを」と先生。あれから28年。関係した人の多くが鬼籍に。
創業から200年の間に造られたベーゼンドルファーはたった5万台。そのうちの1台がここにある。まだまだ淑女じゃないけど、歌えば彼女はウィーンの華やぎを運んでくる。
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